1.UWBとは
移動通信や衛星通信に代表される無線通信の基本的な仕組みは、マルコーニ以来この100年間あまり変わっていない。すなわち、『送りたい情報をそれを運ぶことができる乗り物(キャリア:電波や光)に乗せ、それをアンテナという玄関から空間に送り出し、受信側では、逆の手順によって情報を受け取る仕組み』である。この仕組みを大きく変えようというのが、本稿で紹介するUWB(Ultra Wide Band)である。
近年、伝送される情報そのものがギガビットの域に達している。この伝送速度はこれまでキャリアとして用いられている電波の周波数領域であり、キャリアに乗せずそのままアンテナから放射しても相手に届くであろうと期待できる(そのようなことをすれば周囲に電波干渉を与えるだろうという懸念にはとりあえず目を瞑り)。このような伝送は、メキャリアフリーモあるいはメキャリアレスモ伝送と呼ばれる。送信データがインパルス列で構成される信号をそのまま空間に送り出す伝送方式はインパルス無線(Impulse Radio)と呼ばれる。UWBはインパルス無線を技術の核とする超広帯域無線伝送方式の総称である。
インパルス無線は、米国の軍事技術として長く水面下で研究が進んでいた。そのきっかけは、米国が1962年に行ったハワイ沖の高高度核実験時に現れた電磁現象に対する脅威にあったといわれている[1]。 インパルス無線が通信技術として我々の目に付くようになったのは、1997年に文献[2]により紹介されたあたりからである。これと前後して、米国Time Domain社が牽引役になって、民生用としての無免許利用、すなわちパソコン周囲10m程度以内のパーソナルネットワーク(PAN)利用を目的として、UWBに関する技術開発や標準化の動きが活発になってきた[3]。折りしも昨年のバレンタインデー(2002.02.14)、米国FCC(連邦通信委員会)がUWBの民間利用を認め、米国半導体メーカを中心としたチップセットの開発等、その加熱ぶりは眼を見張るものとなっている[4]。
2.UWBの仕組みと技術課題
図1はUWBシステムの基本構成である。情報を電波に乗せる部分(変調部)と下ろす部分(復調部)がないので、構成そのものはきわめてシンプルである。アンテナは直流分を放射できないので、微分器の働きをする。回路から出力されるインパルス(正規分布型の単一パルス)は、送信アンテナによりモノサイクル状のパルス(正弦波の1サイクル分の波形)に変わり、これが空間を伝搬する。受信アンテナによりもう一回微分されて、元に近い形に戻る
このように書くと簡単にできそうにみえるが、帯域が1オクターブを超える広帯域(図2:現在の提案は3GHz-11GHz帯の利用:まさにウルトラワイドンドバンド)なシステムであるため、回路技術に高いハードルがある。例えばアンテナ技術。小型・軽量・高能率・低価格は、無線通信のすべてにおいて望まれる課題であるが、それを実現するのが難しい上に広帯域の要求が加わるので、その困難さは一層である[5]。現実的には、高能率の部分を犠牲にした開発が進められている。マルチパス伝搬によってもたらされる波形の歪など電波伝搬劣化の克服もまたしかりである。
実質的に無免許で運用されるためには、他のシステムに干渉を与えないことが絶対である。スペクトルを広く薄くしても、5GHz帯無線LANなど干渉に弱いシステムに対しては、対策が必要になる。このため、広い帯域を全部に渡って使用するシングルバンド方式(単一パルスを伝送するシステム)より、帯域を複数に分割して使うマルチバンド方式(搬送波を有する複数のバースト波)(図3)が標準化や商品開発においては主流になりつつある[4]。マルチバンドの場合には、干渉が問題になる帯域を使わないようにすればよいため、柔軟な干渉対策が可能になり、現実的と見られている。一方、このようなマルチバンド化への流れは、従来からあるOFDMなどのマルチキャリア通信システムに近づくことになり、画期的な新方式が謳い文句であったUWBも、従来技術の延長線上に位置する技術になりつつあると言えなくもない。
(注:UWBの標準方式をシングルバンドとするかマルチバンドとするかは、IEEE802.15委員会のTG3aで審議中であり、現時点では未だ結論が出ていない[3])
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3.UWBの本質
シャノンは自ら打ち立てた情報理論の中で通信容量C(ビット/秒)を信号帯雑音電力比S/Nと伝送帯域幅Wを用いてC = W log2 (1 + S/N)で与えている。SN比が一定であれば容量は伝送帯域に比例するので、Wを大きくすることによって、すなわち広い帯域幅を使うことによって、いくらでも伝送容量を増やすことができる。このように、通信容量が使うことのできる帯域によって制限されるシステムを「帯域制限型」と呼ぶ。一方で、無線伝送路では帯域幅に比例して受信雑音電力が増える性質がある。この式を単位周波数あたりの雑音電力N0を用いて書き換えるとC = W log2 {1 + S/(WN0)}となる。W→ーの極限をとると1.44 S/ N0となる。送信電力Sが一定であれば、どんなに広い帯域を使っても送ることのできる情報量は変わらなくなることを意味している。十分広い帯域の元で伝送容量を増やすには、送信電力を上げることであって、帯域そのものではないことがわかる。このようなシステムを「電力制限型」と呼ぶ。帯域幅が大きくなることのメリットは単位帯域あたりの電力密度を下げることに現れている。UWBが現在目指しているところは、周波数3GHzから11GHzの帯域を利用して、しかも、この周波数帯が使われている既存の無線システムに干渉を与えないよう、信号電力密度を小さくする使い方である。数ギガHzの広い帯域を使っているのに、現在いわれている伝送容量が高々100Mbps程度であるのは、その利用のされ方が「電力制限型」になっているためである。
4.UWBのゆくすえ
米国の軍事技術としてスタートしたUWBであるが、FCCによる民間利用の認可を経て、UWBに対する関心は世界的に非常に高まってきた。日本でも通信総合研究所(CRL)を中心として組織的なプロジェクト研究がスタートしている。個別の研究は大学や民間企業レベルでも盛んになってきている[文献[1]中のURL]。現在のUWBは、ワイヤレスPANへの応用を目的として無免許で使えるシステムを目指していることから、必然的に「電力制限型」での利用が議論されている。筆者の研究室では「帯域制限型」の可能性追及、文字通りの超広帯域無線の利用に関心を持って研究を進めている[6]。さて、このUWB、100年後(=無線通信200年)の歴史にどう残っているのであろうか?
参考文献
[1] 小林岳彦, "UWB技術の可能性," 信学総大パネ ル討論, 2003.03,
http://www.ieice.org/ ̄wbs/
[2] R.A. Sholtz, M.Z. Win, "Impulse radio," PIMRC'97, Helsinki, Finland, 1997.
[3] IEEE802.15委員会TG3a.
http://grouper.ieee.org/groups/802/15/
[4] 日経エレクトロニクス、"UWB日本上陸"
pp. 95-121, 2003.2.17.
[5] 高橋寿征, "UWBにおけるアンテナの重要性と WPANへの適用に向けた要件,"電子技術,
pp. 17-21, 2003.9.
[6] 北川淳一他、"無線ベースバンド波形伝送方式の 検討,"2003信学ソ大, p. B-5-207, 2003.09.
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