目黒会ロゴ
検索方法説明
問い合わせ グッズ販売 関連リンク集 情報セキューリティ方針 サイトマップ
 事業報告>>移動体通信研究会/第52回/ベピ・コロンボ計画(水星探査)の概要

52回移動体通信研究会

宇宙航空研究開発機構
 BepiColomboプロジェクトマネージャー 早川 基

早川 基氏 1) はじめに
 水星は紀元前からその存在が知られているが、この惑星に関する我々の知識は約30年前に行われた米国のマリナー10号の通過観測とわずかな地上観測に基づく断片的なものにすぎない。しかし、そのいずれもがこの惑星の特異性を垣間見せており、原始太陽系星雲の最も内縁部、かつ最も高温領域で太陽系の最後に形成されたこの惑星の生い立ちに係るものと考えられている。
 特に、この小さな惑星が固有磁場を有し、周辺に磁気圏を持っていることはマリナー10号の発見の中で最大の驚きであった。水星に関する重要な問題は他にも多数あるが、そのほとんどが磁場の存在に関連している。
 水星と地球の磁気圏を比較することは、地球だけの観測では難しい問題の解明に貢献し、更に広く、宇宙に存在する様々な磁気圏の特殊性と普遍性を知るための大きなステップとなる。
 マリナー10号やその後の地上観測が提起した問題の解明には水星を周回する探査機による観測がなくては推論の域を脱しきれない。そのため、20年ほど前から欧米や日本でもその技術的実現性の検討が行われてきたが、耐熱設計や推進系の技術的問題等のために未だに実現していない。
 しかし、最近の技術的革新によってようやく実現する目処が立ってきた。我が国における水星探査の検討は、旧宇宙科学研究所(現宇宙航空研究開発機構:JAXA)でこれまで実績を挙げてきた磁気圏プラズマ分野を中心とする科学者集団と宇宙工学研究者の間の密接な協力のもとに行われてきた。この計画と欧州宇宙機関(ESA)が独自に計画していたBepiColombo計画とがマージして出来たのが現在のBepiColombo計画である。

2)  水星の特徴とこれまでの観測
 
図1
 水星は太陽系の惑星としては珍しく離心率の大きな長楕円の軌道(近日点:0.31AU、遠日点:0.47AU)をしており、その軌道周期(87.97日)と自転周期(58.65日)は2:3に同期している。すなわち水星上の1日は2水星年にあたる175.9日となる。また、水星はその大きさの割りに質量が大変大きく、この為半径の約8割にも達する巨大な鉄のコアを持っていると考えられている(金星、地球、火星ではせいぜい5割程度)。水星は半径2440kmと地球の月と火星との中間の大きさしかなく、従来の理論では中心まで固まっていると考えられていた。磁場生成のダイナモ理論では流体核内部での対流運動が必須であるため、マリナー10号が直接観測を行うまでは惑星の固有磁場は持たないものと考えられていた。このマリナー10号の観測した固有磁場は2008年のMESSENGERによる2回のフライバイ観測でも確認されているほか、地上からのレーダーによる精密観測からは内部の少なくとも一部分が溶けている事が示唆されており、水星内部の進化に対して見直しが迫られている。
図2
 水星の表面はマリナー10号のフライバイ観測ではフライバイの周期が水星の2年間隔であったため昼間側は同一半球であり、全体の約45%ほどしか観測されなかった。2008年のMESSENGERによるフライバイ観測により約90%がカバーされたが、水星の起源を決める上で重要な表面の元素組成は未だ十分ではなく、2011年に予定されているMESSENGERの水星周回軌道投入後の課題として残されている。
 また、水星は太陽からの離角が小さいため、軌道上の望遠鏡衛星を水星に向ける事は衛星を破壊してしまう可能性が高く観測が出来ない。また、地上からの光学観測では日の出前又は日没後のいずれか一方1時間程度しか観測の好機がなく、その時でも地球大気の影響を強く受けるため長時間観測、精密観測ともに困難な天体である。このため水星の観測は短時間の光学観測、レーダー観測、マリナー10号及びMESSENGERによるフライバイ観測に限られており、最も理解されていない地球型惑星となっている。

3)BepiColombo計画の概要
  BepiColombo計画は2機の周回衛星を水星へと送り込み、水星に関して調べられる事は調べつくそうという野心的な計画であり、ESAとJAXAが共同で推進をしている計画である。周回衛星の内の一機、主として磁場・磁気圏を探査する水星磁気圏探査機(MMO)はJAXAが開発・運用し、主として固体の水星自身を探査する水星表面探査機(MPO)の開発・運用、電気推進モジュール(MTM)の開発、打ち上げから水星軌道投入までの運用はESAが行う。

図3
 このミッションの名前であるBepiColomboは水星に縁の深い応用数学者・天体物理学者・軌道工学者であるGiuseppe Colombo(ジュゼッペ・コロンボ)博士(BepiはGiuseppeの愛称)に因んでつけられたものである。彼は、水星の自転周期と公転周期が正確に2:3に同期する事を示したほか、惑星の重力を利用(フライバイ)して水星に到達するマリナー10号の軌道をNASAに提言した事でも知られている。
 2機の衛星はESA・JAXAで別々に開発されるが、それらに搭載する観測機器は日欧に公募を出し世界トップクラスの性能を持つ観測器が選定されている。2つの周回機は惑星間空間飛行用の電気推進モジュールと組み合わされ一つのコンポジットとして2014年にアリアン5型ロケットにより打ち上げられ、地球・金星・水星のフライバイと電気推進により減速を繰り返し、2020年に水星周回軌道に投入される。MTMは周回軌道投入の直前に切り離され、MPOに搭載された軌道制御用エンジンを用いて軌道投入を行う。

図4
 その後、同エンジンを使用し徐々に遠水点高度を下げて行き、MMOの軌道に到達したところでMMOの分離、MMOの周りを覆っていたサンシールドの分離を行い、MPO単独の状態でMPOの軌道にまでさらに遠水点高度を下げていく。MMOとMPOの軌道は近水点での両衛星の会合の頻度がなるべく高くなるように夫々の軌道周期が調整されている。
 各々が所定の軌道に投入された後、両衛星はノミナル1地球年、延長で更に1地球年の間協調しながら観測を行う事となっている。

図5
 MMOには粒子(低〜高エネルギー)、波動(DC〜高周波)、磁場(DC〜高周波)のプラズマ環境を計測するためのフルパッケージが搭載されており、水星周辺環境の探査に大きな成果を挙げることが期待される。

4) BepiColomboのサイエンス
 BepiColomboでは水星について調べつくす事を目的としており、MPOは表面地形・組成、内部構造計測に最適化され、リモートセンシングを行う観測器を主体として11種類の観測器群が、MMOは磁場・磁気圏の観測に最適化され、その場観測を行う観測器を主体として5種類の観測器群が搭載されている。これらの観測器群を組合せて観測を行うことにより、粒子加速・加熱など普遍的な「宇宙物理」に関する問題、太陽風と水星磁気圏との相互作用、希薄大気の磁気圏への影響など水星周辺の「プラズマ環境」に関わる問題、表面組成、磁場構造など水星の「起源と進化」に関わる問題という広い範囲の科学に対して大きな貢献をもたらせると期待している。
図6
図7

 米国が2004年に打ち上げた水星探査機MESSENGERはBepiColomboよりも一足早く2011年から水星の周回軌道に入り、観測を開始する予定である。両プロジェクトの間ではMESSENGERは先に行き「発見」「新たな問題の提起」を行う”Path finder”、BepiColomboは後から行き2機による同時観測と言う強みを最大限に生かし、更なる「発見」を行うと共に「問題解決」行うという理解のもと協力が行われている。

Copyright 2003 Megurokai,All Rights Reserved
このページの先頭へ戻る