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目黒会報/主要な記事/ヘテロ接合FETの研究開発と実用化に従事して

会報16-2の主要記事

携帯電話の送信電力増幅用ヘテロ接合FETの
研究開発と実用化に従事して

NEC化合物デバイス株式会社
平成16年度 同窓会賞受賞者  岩 田 直 高

岩田直高(平成16年度同窓会賞受賞者) 「大学での成績は良かったのですか?」同窓会賞講演会で新入生から受けた最初の質問である。そういえば私も講演の準備に刺激されて、電通大時代を懐かしく思い返していた。あの頃は、起きている時間の大半をギターで潰していた。そのためか、成績は留年しない程度のものであった。3年生の最後になって、バンドではやって行けるはずのない自分に気づき、本当にしたいことを考えた。そして、「勉強がしたい」と「海外を見たい」というぼんやりとした夢を持った。
 私は、熱中する方だと思う。小さい頃からラジオ製作やアマチュア無線に没頭した。しかし、勉強にはあまり力が入らなかった。その私が、4年になる頃に一転「勉強がしたい」と大学院への受験勉強を始めた。バンド活動をようやく止め、就職活動を始めてくれると信じていた親は慌てた。準備が足らず、案の定、電通大の試験に落ちた。すぐに他大学を調べ、筑波大の試験日程が遅いことを知った。そして筑波大の友人のアパートに泊めてもらって受験した。発表当日、友人からは電話が無かった。やっぱりダメだったかと思ったが、翌日電話をすると合格だった。「勉強がしたい」という夢が実現できるスタートラインに立った。
 III - V族の化合物半導体であるGaAs(ガリウムひ素)という物質名は、合格後、研究室を訪問した折りに指導教授から質問され、初めて聞いた。正確には、「GaAsという化合物半導体を知っているか?」と聞かれたもののさっぱり分からず、入学後に研究室がスタートして、それが何かを初めて理解した。2年間の修士課程では、勉強をした。私にとって新しい知識であるGaAsの物性は、興味深く新鮮であった。さらに、実験によって得られた知見を基に考察し、まとめた成果を学会で発表するという研究という仕事にも魅了された。今度は成績も良かったと思う。
 就職はNECの基礎研究所に決まった。最初の研究テーマは、AlGaAs(アルミニウムガリウムひ素)という混晶半導体の物性評価であった。少し専門的になるが、大学院時代のGaAs中のEL2と呼ばれる深い欠陥準位の評価を通した半導体物性に関する知識の習得と基礎研時代のAlGaAs中のDXセンタと呼ばれる深い欠陥準位や浅いドナー準位の評価に従事したことが、後のヘテロ接合FET(電界効果トランジスタ)の開発の基礎となった。その後は、化合物半導体ヘテロ接合の結晶成長を経験し、デバイス開発を仰せつかった。
 1991年、大津市にあるNEC関西の敷地内に化合物半導体デバイスの研究所が設立され、赴任を命じられた。ここでは、ミリ波帯で使用するパワートランジスタの開発というテーマが与えられた。ところで、InGaAs(インジウムガリウムひ素)をチャネル層(電子の流れる道)としてドナー不純物を添加したAlGaAsを電子供給層とするシングルヘテロ接合構造では、良好な伝導特性が得られることは知られていた。しかし、耐圧特性が悪く、この構造によるパワートランジスタの実現は困難であった。この問題の克服に向けて研究開発を進めている時、普及が始まったばかりの携帯電話に、リチウムイオン電池の適用を事業部が検討していることを知った。リチウムイオン電池は長持ちするが、3.5Vの低い電圧しか発生しない。そのため、送信電力増幅用のトランジスタにおいては、従来のGaAs MESFET(メスフェット:GaAsの単層で構成されるショットキー障壁型FET)では十分な特性が得られず、リチウムイオン電池の携帯電話への適用が阻まれていた。これには検討中のn-AlGaAs/InGaAs/n-AlGaAs(ダブルドープダブルヘテロ接合)構造を有するFETが好適と推察し、開発を提案した。当時のGaAsデバイスは、シリコンデバイスとの対比から超高速デバイスとして認識されており、「1GHzのパワーアンプなんて、そんな難しい構造ではなくて、MESFETで十分ではないのか?いや、シリコンのFETでもいけるのでは!?」的な議論を何度も吹っ掛けられた。海の物とも山の物とものテーマに集められたメンバーは新人の男女2名であった。それに私を加えた3名での船出であったが、閉塞感や手詰まり感などは無かった。実際、彼らは他のどの研究者よりも優秀であった。
 トランジスタが低電圧動作で良好な出力特性を得るためには、徹底的に低いオン抵抗(トランジスタが動作し始めるときの抵抗値)が要求される。これはMESFETにおいても、ゲート幅(トランジスタサイズの指標)の増大によれば可能ではあるが、利得(増幅度の指標)の低下を招く。さらに、低コストで小型軽量化が要求される携帯電話への適用を想定すれば、本末転倒した解決策であることは明白である。提案したダブルドープダブルヘテロ接合構造のFETは、小さなゲート幅で低いオン抵抗を示すとともに、十分な耐圧特性も有していることが開発の初期段階で判明した。そして条件の厳しい低電圧動作においても、低歪で高効率などの良好な出力特性が得られた。これらの成果を学会や論文で発表することにより、周りの認識も変わり、人や設備が投入されるのに時間はかからなかった。

ヘテロ接合FET
 ところで、1993年に米国のスタンフォード大学に留学する機会を得た。ここでの素晴らしい研究環境や人との出会い、パロアルトでの生活を経験したことは、私の生涯の宝である。「海外を見たい」という夢が、具体的に実現したわけである。この時以来、熱望し努力すれば、夢は実現すると確信している。
 帰国すると実用化に向けた仕事が待っていたが、環境は整い、機は熟していた。1995年に世界で初めて(商用ベース[数十万個/月レベルの出荷]として)ダブルドープダブルヘテロ接合FETを搭載した携帯電話用パワーアンプモジュールを発売した。その時、NECはMESFETからこのヘテロ接合FETに舵を切ったわけであるが、デバイス技術の世代交代現場に居合わせた幸せに感謝した。その後もデバイス構造やウエハプロセス技術に改良を重ねた結果、MESFETに対して特性およびコストの両面から決定的な差をつけた。現在ではPDC(Personal Digital Cellular:日本の代表的な第2世代携帯電話の方式)携帯電話のほとんど全てに、このヘテロ接合FETを用いたパワーアンプが使用されている。さらに、この技術によるパワーアンプは輸出され、海外の携帯電話にも適用されている。一方、他社もヘテロ接合FETを搭載したパワーアンプモジュールを多数製品化してきた。携帯電話関連の技術や製品の開発はものすごい速さで進んでいる。変わり続けなければ、生き残れないことを実感している。
 最後に、これらの成果と今回の受賞は、研究開発をはじめ、製品開発、生産、販売およびこれらのサポートにあたった方々のお力の賜物です。これまでのご指導とご尽力に、心から感謝申し上げます。今後も新たな夢に向けて進む所存です。

 

 

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